はじめに
2015年に放送され、アイドルマスターの歴史に新たな1ページを刻んだ「アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ」。
複数の登場人物が織り成す人間模様を描く群像劇というストーリー方式上、主人公と呼べるキャラクターは存在しないのですが、その中でも物語の主軸として描かれたのが(特に2nd Seasonにおける)卯月のエピソードでした。
全編に渡って細かい心理描写・台詞回しが散見されるのが特徴のこの作品ですが、その中でも卯月に関するエピソードは複数の回を跨ぎ、なおかつ婉曲的な表現も多く、一度の視聴だけで全貌を理解するのは難しいのではないかと考えられます。この記事では本編中の描写・台詞から読み解ける「卯月の内面はどのような変遷を経て、彼女のアイドルとしての在り方がどのように変化したのか」ということについてのメモを記していきたいと思います。
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卯月の抱える問題について
さて、このアニメの卯月を語る上で外せないのが
「卯月の抱えていた問題とは何だったのか?」
という疑問。
こう訊かれて真っ先に思い浮かぶのは、23話Bパートにおいて、卯月が凛と未央に自身の抱える悩み(問題)を打ち明けるシーンでしょうか。以下はその抜粋です。
©BNEI/PROJECT CINDEREELLA
「私、本当に頑張ろうって思っただけです。私、本当にもう一度頑張ろうって。笑顔だって、普通に……。私、笑顔じゃないですか? あれ、でも私、舞踏会に向けて頑張って……。皆みたいに、キラキラしなきゃ。歌とかお芝居とか、ダンスとか色々、皆何か見つけてて。頑張ったんです。私、レッスン大好きだし……。頑張ってったら、もっともっとレッスンしたら、あの……。でも、ちっとも分からなくて。私の中のキラキラするもの、何だか分からなくて。このままだったらどうしよう、もし、このまま時間が来ちゃったら……」
「怖いよ……。もし、私だけ何にも見つからなかったら。どうしよう、怖いよ……。プロデューサーさんは、私の良い所は笑顔だって、だけど、だけど……」
「笑顔なんて、笑うなんて誰でもできるもん! 何にも無い、私には何にも……」
このように、語られた内容には
「自分が持つ特別なものが何か、そもそもそれが存在するのかどうかすら分からない」
とあり、これこそが卯月の抱える最も大きな問題であったことは間違いないでしょう。
しかしながら、ここで一つ疑問が。
©BNEI/PROJECT CINDEREELLA
「これじゃアスタリスク本当に解散しちゃうかも!」
「ええっ!? り、莉嘉ちゃん! 解散なんて言っちゃ駄目ですよ!」
「しまむー、冗談に決まってるじゃん」
「あ……で、ですよね……」
莉嘉の発した「解散」というワードに過剰な反応を示す卯月。上で触れた23話で彼女が語った内容とは直接の関連は無い描写です。さて、何故このようなシーンが存在するのでしょうか?
その答えとして推測されるのは、
「卯月の抱えていたもう一つの問題を描写するため」
であると考えます。そして、これら2つの問題の関係性を読み解くことで「卯月のアイドルとしての在り方が物語の中でどのように変化したのか」という、彼女のエピソードの根幹に関わる出来事が明らかになって行きます。
卯月の「現状維持」の姿勢
この項では卯月の抱えていたもう一つの問題を明確にしていきます。
以下は19話Aパートにおけるニュージェネ三人のやり取り。油断しているとさらっと流してしまいそうな世間話にも聞こえますが、基本的に無意味な描写は無いのがこの作品……という前提の下で話を進めていきましょう。
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「私たちも何か、新しいことやってみる?」(未央)
「私は……このままやってきたことをしっかり続けるでいいと思う」(凛)
「そうですよね!」(卯月)
美城常務の行った組織ぐるみの変革に否応なく巻き込まれ、美嘉やバラエティ部門のアイドル達は今一度自身の方向性を見直さなくてはならない状況に置かれることとなります。
上記の言葉は、そんな卯月の周囲の環境が少しずつ変化しつつある中でのやり取りで発せられたものです。すなわち「新しいことを始める」と言った未央ではなく「このままやってきたことを続ける」と言った凛に同調の姿勢を示す卯月の意思は、そのような状況の中でも、これまで通りニュージェネレーションズとして変わらず三人で活動していきたい、といったものでした。
つまり卯月は何より「今」を大切にしているんですよね。
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「夢? アイドルになるのが?」
「はい!」
「……あのさ、卯月はどうしてアイドルになりたいの?」
「ええっ、どうして? えっと、だって、綺麗な衣装を着れて、キラキラしたステージに立ってて、お姫様みたいで……。あっ、あんな風になれたらいいなって……。えっと、正直どういうお仕事がアイドルの仕事なのか、私もよく分かってないんですけど……。でも、夢なんです。スクールに入って、同じ研究生の子たちとレッスンを受けながら、私、ずっと待ってました。アイドルに、キラキラした何かになれる日が、きっと私にも来るんだって。そうだったらいいなって、ずっと思ってて。そうしたら、プロデューサーさんが声をかけてくれたんです」
「アイツが……」
「プロデューサーさんは、私を見つけてくれたから! 私は、きっとこれから、夢を叶えられるんだなって! それが、嬉しくて!」
卯月の夢が「アイドルになること」そのものであったというのは、1話で語られている通りです。
養成所で他の同期の候補生たちが次々と辞めていく中一人だけ残り、ようやく手にしたアイドルという夢。台詞の通り憧れだけが何よりも先行していた卯月にとっては、そこに辿り着いた時点で既に「ゴール」だったのかもしれません。
そのため、卯月は「現状以上の何か」を求めてはおらず、逆に言えば彼女は「現状を維持すること」に対して人一倍繊細な感性を持っていると考えられます。
しかしながら、卯月の周囲は徐々に変化の兆しを見せ始めます。冒頭のような台詞を発した凛本人が、新しい何かを探すために「変わっていくこと」を選択し、トライアドプリムスとしての活動に意欲を示し始めたのは、物語における大きなターニングポイントであると言えるでしょう。
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「へー、いい感じだね!」
「あ、はい……」
「このまま」を望む卯月が、誰に言うことも出来ない葛藤をその内に抱えていく過程がこのシーン(冒頭で述べたやり取りの直後)で描かれています。加蓮・奈緒と歌う凛を見て素直な感心を表す未央に対し、頷きつつも体を強張らせる卯月の姿からも、現状が変わりゆくことへの予兆を彼女が漠然とした不安として感じ取っていたことが窺えます。
以上複数の描写から、卯月の抱えていたもう一つの問題というのは
「ニュージェネレーションズが変化していくことに対する不安」
であると解釈することが出来るでしょう。
卯月の心情の変遷
この項が記事の本題です。
上述の通り卯月の抱える問題は
- ニュージェネレーションズが変化していくことに対する不安
- 「キラキラした何か」が自分にもあるのかどうかが分からないという不安
の2つに集約されます。
少し話は逸れますが、この2つは根本としては同一の問題なのではないか、と捉える方も居るかもしれません。確かにどちらも「凛や未央が遠くへ行ってしまい、自分だけ取り残されていることに対する不安」という言葉で纏めることは可能ではあります。
しかし、上記の「ニュージェネが変化していくことへの不安」というのは卯月の視点が自身の外(周囲)に向いているのに対して、「キラキラした何かが自分にあるかが分からないという不安」は卯月の視点が自身の内(自己)に向いており、これらは方向としては真逆のものであると理解されます。
閑話休題。問題は2つと述べましたが、物語全編において実際に卯月の口から凛と未央に語られたのは後者のみ(これは、前者の不安を打ち明けることが、凛や未央の挑戦の足枷となってしまうことに繋がるのを恐れていたからだと推測できる)であり、また23話Bパート冒頭では以下のような台詞も存在します。
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(ライブへの参加に消極的な卯月に、その理由を聞き出そうとする凛と未央)
「私や未央が、ニュージェネ以外の仕事をしたから……」
「私も一番に走り出しちゃったし……でしょ?」
「ち、違います! そんなこと無いですよ? 凛ちゃんも未央ちゃんもすごくキラキラしてるし……ほんとにすごいです。部署の皆も、ほんとに。だから、私も追いつけるように、もっともっと頑張って……」
前者の問題(不安)を2人に指摘された卯月は、明確な言葉でそれを否定しています。
19話の時点ではニュージェネが変化することに不安を示していた卯月が、23話の時点ではその不安を否定している……。
この事実について本記事では、2nd Seasonの前半から後半にかけて卯月の抱える問題が
「ニュージェネレーションズが変化していくことに対する不安」
↓
「『キラキラした何か』が自分にもあるのかどうかが分からないという不安」
の様に移り変わったからである、と解釈します。
すなわち、先程と同じ表現をするなら、卯月の視点が「外」から「内」へと変化したということ。
一般に物語というものは登場人物の変化(往々にして、それは内面における)が重要な意味を持つ場合が多いですが、この作品もその例に漏れないという訳です。以下ではこの一連の出来事について読み取っていくことにしましょう。
さて、まず「移り変わった」とはどういうことかについての説明から。それは、卯月が最も価値を見出していることが
「ニュージェネが変わらないままであること」
↓
「アイドルとしてより強く輝くこと」
の様に変遷したということ。
ここでこの二つの関係性に注目して話を進めます。
これは20話までの卯月の価値観の状態を表した図。(なんちゃってグラフなので細かいあれこれは無しの方向で……)
「ニュージェネが変化せずこのままであること」に最も価値を置いているということは、すなわち「自分が変化せずこのままであること」への肯定にも繋がります。
現状の維持が最も重要であるのなら、自身が変化し、「アイドルとしてよりキラキラした存在になる」……という発想には至りませんね。
という訳で、2nd Season前半では、前者の「ニュージェネが変化せずこのままであること」に対して卯月が強い価値を認めていたために、後者の「アイドルとしてより強く輝くこと(輝きを見つけ出すこと)」についての問題が覆い隠されていた、と捉えることが出来ます。
しかし物語が進んでいくにつれ、前述の通り卯月の抱える問題が前者→後者へと移り変わっていく訳です。前者の問題が後者の問題を覆い隠していたという点を踏まえると、この変遷の為には
(1) 卯月の「ニュージェネが変わらないままであること」に対する価値が弱まること
(2) 卯月の「アイドルとしてより強く輝くこと」への憧れが喚起され、彼女が自身の内面と向き合わざるを得ない状況となること
という2つの要素が順番に為されることが必要です。
小難しい話になりましたが、要するに卯月が
「変わることは別に悪いことじゃない」
と思うようになった上で
「アイドルとしてよりキラキラした存在になりたい(変わりたい)」
と望むようになることが大事、ということです。
となれば重要なのは、卯月にとって転換点とも言えるこの2つが、物語中のどこで描かれていたのかということ。
ということで、次の項では20~22話における卯月の描写を時系列順に詳しく見ていきましょう。
未央が与えた影響
©BNEI/PROJECT CINDEREELLA
「……しまむーはどう思う?」
「え……? えっと、あの、私、私……。分かりません……。分かりません、私……」
20話終盤、凛がトライアドプリムスへの参加に少なからず積極的であることを未央と卯月に告白する場面。
凛の挑戦の足枷になりたくないという思いから言葉でこそ語られませんが、この時の卯月は明らかに戸惑い・不安を隠せない様子で、ユニットがバラバラになって欲しくないという彼女の願いが垣間見えるシーンです。
すなわちこの時の卯月にとっては「ニュージェネが変化せずこのままであること」(前者の問題)が最も重要であり、自己の内面と向き合う(後者の問題)段階には居なかったと捉えられます。
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「未央ちゃん、素敵でしたね……」
「うん。ドキドキした。……あのね、卯月」
「いいと思います!」
「……卯月?」
「未央ちゃん、とってもキラキラしてて素敵でした! だから、凛ちゃんもきっと!」
「……ありがとう、卯月」
「私も頑張ります!」
続いて21話、『秘密の花園』の直後に描かれる歩道橋の場面です。
現状を維持することに価値を認めている、すなわち裏を返せば、凛の様に高みを目指して変化することに懐疑的(というと少し極端ですが)だった卯月。
そんな彼女の価値観は、凛の意思を理解するために新たな挑戦に踏み出した未央の姿を見て、少しずつ変わり始めます。
新しい可能性に挑む未央の姿はキラキラしていた。変化することは、決して悪いことではないんじゃないか、と。
この一連の出来事を経て、上述の
(1) 卯月の「ニュージェネが変わらないままであること」に対する価値が弱まること
という1つ目の要素が達成されたと考えられます。
凛の挑戦の是非について、以前は「分からない」としか答えることが出来なかった卯月。そんな彼女は、(完全には割り切れていなかったと思いますが)ようやく言葉にして友人の決断を応援することが出来るようになりました。この変化は、卯月という人物像における非常に大きな変化であると言えるでしょう。
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「凛ちゃんはすごく綺麗な声してて、未央ちゃんは演技がすごく上手くって、私は、あの……。私の良いところって、何でしょうか……?」
「笑顔です」
「笑顔……」
「はい」
「……ですよね! 島村卯月、頑張ります!」
歩道橋のシーンの直後、卯月とプロデューサーの対話において。
さて、覆い隠すものが無くなったからと言って、後者の問題がすぐ顕在化する訳ではありません。未央のことをキラキラしていて素敵だったと語った卯月ですが、あくまでそれは彼女の新たな挑戦に踏み出す姿に対してであり、(2)の卯月のアイドルに対する憧れを喚起する強い要因にはなり得ないのがポイントです。
ですから、このシーンでは、卯月はアイドルとして輝くことに対する価値を少しずつ膨らませつつはあるものの、「自分の良いところは何か」という問いに面と向かって対峙することを無意識のうちに避けている様子が窺えます。
それ故に、「頑張ります」とは言うものの、この時点での彼女の中では頑張る事の対象というものが非常に抽象的だったのではないかと考えられます。
何を頑張れば良いのかは自己の内面と向き合わないと分からない、でも自己の内面と向き合うことは恐ろしい。
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「用事ってわけじゃないんだけど……仕事の邪魔しちゃったかな」
「いっ、いえ、大丈夫です! 私の方こそバタバタしちゃってて……」
「今日のしまむー、みんな以上に気合入ってるもんね」
そんな板挟みの中にあった卯月は、続く22話前半において、ライブの裏方としての手伝いを「頑張る」ことでひとまず自分の気持ちを落ち着かせようとしている姿が描かれています。
凛が与えた影響
©BNEI/PROJECT CINDEREELLA
そして22話後半、卯月にとって最大の転機とも言える場面が訪れます。
オータムフェスにて、ステージ上で華々しく歌い上げる凛の姿を見て、卯月が胸の前で組んだ両手を握り締めるシーン。
初見時であれば、この描写の意味を「ニュージェネ以外の場所でアイドルとしての輝きを見せる凛に対する、割り切れない気持ちを表している」と捉えるのが最も自然な解釈ではあります。
しかしながら、実はこの22話を境に、卯月の抱える最も大きな問題である「『キラキラした何か』が自分にもあるのかどうかが分からないという不安」が急速に顕在化しているのです。その事実を踏まえると、同話数において、卯月の価値観に大きく影響を与えるような何かがあったと捉えるのが自然です。
つまり、この場面でステージ上の凛に対して卯月が抱いた感情は、不安や憂いといった負の感情を上回る
「アイドルとして輝くことへの純粋な憧れ」
だったのではないのでしょうか。
③の項目で触れた通り、卯月の夢は「アイドルになること」そのものでした。
既に叶ってしまった
「アイドルになること」
という夢から、
「アイドルとしてより強く輝くこと」
への憧憬へ。
この価値観の変遷の切っ掛けとなったのが、ステージの上でアイドルとしての舞台を謳歌しその輝きを体現する、凛の姿だったのです。
すなわち、ここで
(2) 卯月の「アイドルとしてより強く輝くこと」への憧れが喚起され、彼女が自身の内面と向き合わざるを得ない状況となること
という2つ目の要素が達成されたと考えられます。
©BNEI/PROJECT CINDEREELLA
「引き続きアナスタシアさんはソロ活動を、渋谷さんはトライアドプリムスを並行していきます」
「え……?」
「卯月?」
「私、頑張ります!」
「う、うん……」
そして22話でのライブの後、凛がこれからもトライアドプリムスとしての活動を続けるというプロデューサーの言葉に一瞬戸惑いを見せる卯月ですが、そのすぐ後に「私、頑張ります」と自身を奮い立たせるような言葉を凛と未央の二人に発します。
この言葉は、以前までの抽象的な「頑張る」ではなく、「頑張ることで凛や未央のような輝きを見つけ出したい」という卯月の新たな意志の表明であり、自分の良いところは何かという問いに向き合うことに対する、彼女の強い覚悟が表れていると言えます。
しかし向き合えば向き合うほど、浮き彫りになる自らの非才。周りがいくらそれを否定しようとも、自分自身が納得できない限りその翳りが消えることはありません。そのような過程を経て、卯月の物語は23~24話への展開へと繋がっていくのです。
以上の通り、卯月を最終的に追い込んだのは、彼女の「アイドルとして輝くことへの憧れ」であったというのは、恐ろしいまでの皮肉としか言いようがないでしょう。
卯月が辿り着いた結論
最も重要な部分は書き終えたので、後は余談を少々。
自らの抱える問題に対して、卯月が最終的に下した決断は24話で語られた通りです。
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「あの! 私、まだ、まだ怖くて……私だけの笑顔になれるか、分からなくて。でも、見て欲しい……!」
「私、確かめたいんです! もし、何かあるかもしれないなら……あるかは分からないけど、でも……!」
「信じたいから! 私も、キラキラできるって、信じたいから……!」
「このままは、嫌だから……!」
注目すべきなのは、卯月の一歩先に踏み出すという決意の中心にあるのは「ユニットメンバーの為」や「仲間が待ってくれていることの安心感」ではないということ。ただ「確かめたい」「信じたい」という彼女自身の強い意志こそが、卯月を再びアイドルの舞台へと導いたのです。
(「自らの意志による選択」というのはこの作品のテーマに関わる話なのですが、これについての詳しい話は以下の記事で紹介しています)
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「……島村さん、選んでください。このまま、ここに留まるのか。可能性を信じて、進むのか。どちらを選ぶかは、島村さんが決めてください」
「島村さん。選んだその先で、あなたは一人ではありません。私達が……皆が、居ます」
同24話、プロデューサーと卯月のやり取りの中にもその構図は見て取れるのですが、これらの台詞を注意して見ると、非常に慎重な言葉選びが為されていることが窺えます。
まず、仲間が居るのが選択の「先」であるというのは、選択を行うのはあくまで卯月1人の力であるということの裏返し。
(彼自身の意向は抜きにして)プロデューサーは「留まること」「進むこと」を等価な選択肢として卯月に提示しており、その選択は卯月自身によって為されなくてはならないと考えていることが分かります。
そして選択肢が等価である故に、続く言葉は「選んだ」先。「進んだ」先と言わないのは、留まることを卯月が選択したとして、その先においても卯月は決して一人ではないと、そう伝えたかったからなのでしょう。
短い台詞ですが、相手の未来に対する慎重さと誠実さが表れた、非常に彼らしい言葉の選び方ですね。
そして最後に、かつて自分を追い詰めた「アイドルとして輝くことへの憧れ」を、今の卯月はどのように捉えているのか。
その問いに対する答えが聞ける、最終話の言葉を引用して終わりたいと思います。
©BNEI/PROJECT CINDEREELLA
「アイドル活動において、大切にされていることは?」
「私、キラキラしたいなって。今でも、その気持ちは大切なんです!」